黒澤明DVDコレクションのシリーズで成瀬巳喜男監督作『雪崩』(昭和12年=1937年/P.C.L)と山本嘉次郎監督作『綴方教室』(昭和13年=1938年/P.C.L)が出てまして、買ってみました。
まあそもそもなんで成瀬作品が黒澤明DVDコレクションなのかっつー話な訳ですが、この『雪崩』は黒澤明が成瀬巳喜男に助監督(サード)で付いた唯一の作品ということなのです。
このシリーズ、30号までで黒澤監督作品はリリースし終えてて、以降は脚本作とか助監督参加作とかとりあえず何かしら黒澤明が関わってる作品も網羅していってる感じなわけです。
成瀬巳喜男監督作なのに黒澤明コレクションとして売り出されてしまうところになんというか世の無常を感じないではいられないわけですが、しかしもう一歩考えれば、そのまま成瀬作品と謳ってもDVD化は多分されなかったんじゃないかなー(泣)であろうこの作品を、このシリーズでなら出せるじゃん! DVD化諦めてたあれだってこれだって黒澤関連作ってことで営業部のOK取れるじゃん! チャーンス!! と企画担当者は考えたのではないでしょうか。そう考えれば、この際体裁はどうだろうが、あれもこれもDVD化してくれてありがとう朝日新聞出版! ありがとう編集の人! ありがとう黒澤明監督! と言う外にありません。
というわけで『雪崩』を観ましたが、正直今一つでした(笑)。
鼻持ちならないブルジョアの欺瞞と傲慢に満ちた話で、ブルジョアの考えていることはわからんつーか、わかりたくもないつーか。疑うことを知らない従順な妻が可哀想なんですが、あそこまで行くと、お前ももうちょっとしっかりしろよ!何を素直に死のうとしてんだよ!考えろよ!とも言いたくなるのでした。成瀬監督の題材ではなかったのかも知れません。
もう一本の『綴方教室』は山本嘉次郎監督作で黒澤明は製作主任(チーフ助監督)。
こっちは貧乏な実在の一家の話です。貧乏は辛いなあ。
小学6年生の正子が学校の先生に綴方(作文)の指導を受けて自らの生活をありのままに書き、それを後に先生が本にしてベストセラーになったものが原作です。
正子の綴方が赤い鳥という児童文芸誌に載って評判になり、お母さんはご褒美に洋服を買ってあげたりしますが、その文章が原因で(実名でケチだとありのままに書いちゃったもんだから)お父さんの雇い主一家とトラブルになり、お母さんは今度は、お前が馬鹿なことを書くからだ、うちが仕事なくしたらどうすんだと箒で思いっきり正子を叩きまくります。泣いて謝っても許してくれません。お母さんもお母さんですが、どう考えても先生の指導ミスじゃないでしょうか。いやあ綴方を教えるのも案外難しい、などと呑気に反省する先生ですが、配慮なさ過ぎです。
この先生が(映画では描かれませんが)実は正子の文章の印税から何からを自分のものにしていたことが後に発覚する、という事実があるようで、その辺ブックレットで言及されてますが、それを知ると余計「先生あんた‥‥‥」と嫌な気分になってしまいます。
撮影当時14歳という高峰秀子は正に天才子役で美少女で背も周りの子たちより一人だけシュッと高く、貧乏な家の子という役ですが、明らかに輝いてます。焚火のシーンとかよかった。高峰秀子の魅力で貧乏もかなり救われていると思われます。
ともあれ観れてよかった二本でした。