江戸川乱歩と横溝正史と渡辺温

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 『江戸川乱歩と横溝正史』を読んでいたら、1926(大正15)年に横溝正史が雑誌「新青年」の編集長になったくだりで「横溝は、新たに渡辺温を入社させた。」という文章が出てきて、

ん? 渡辺温(わたなべ・おん)‥てなんか知ってるな‥‥ あ、あれか!

と気がつきました。

 十年ほど前に私は創元推理文庫から出た『渡辺温全集 - アンドロギュノスの裔(ちすじ)』を読んでいたではないか。

 

 私はそれまで渡辺温のことは全く知らなかったんですが、この本を装丁したFragment柳川貴代さんのツイッターで知って、面白そうだな~と思って買ったのでした。

 その解説等で、横溝に乞われて博文館に入社して横溝の右腕として「新青年」の編集をしながら小説を執筆云々、というのは読んでいたはずですが、すっかり忘れてました。そうだ、そうだった。谷崎潤一郎宅に原稿依頼に行き、その帰りに乗っていたタクシーが貨物列車に衝突して27歳で夭折、というのは憶えてましたが。

 大正~昭和初期というとなんか大昔で古い “今とは別の世界“ っぽい印象を持ってしまいがちだったんですが、読んでみるとこれがそんな思い込みを覆す非常にモダンな世界なのです。生き生きとした躍動感もあり、しかし闇もあり、どこか不思議な、カバー裏の文にあるように正に「影絵の如き物語世界」で、惹き込まれて読みました。大正の人すげえ! 

 不運な事故さえなければ、乱歩・横溝に並ぶ大作家になっていたのではないでしょうか。 

 

 という過去に読んだ印象的な作家(忘れてたけど)の登場で、なんかこう急に点と点がつながった感じで『江戸川乱歩横溝正史』の面白さに個人的に一気に弾みがつきました。

 でもこの後、渡辺温の突然の事故死が待っているのかと思うとちょっと胸が苦しいな。

 

 私は正直、江戸川乱歩も実際に読んだことがあるのは子供の頃に読んだ子供向けの怪人二十面相と少年探偵団ものだけで、他は映画・ドラマ等で知ってるだけなので、知っている方には何を今更な話ですが、『屋根裏の散歩者』『人間椅子』『D坂の殺人事件』などの今の目で見ても衝撃的な有名作がキャリア初期の大正時代に書かれていたということに改めてびっくりしました。本当に今更ですが、大正の人々すごい。

 ちゃんと読まなきゃなー。

 

アンドロギュノスの裔 (渡辺温全集) (創元推理文庫)

アンドロギュノスの裔 (渡辺温全集) (創元推理文庫)

  • 作者:渡辺 温
  • 発売日: 2011/08/31
  • メディア: 文庫
 
江戸川乱歩と横溝正史 (集英社文庫)

江戸川乱歩と横溝正史 (集英社文庫)

  • 作者:中川 右介
  • 発売日: 2020/12/18
  • メディア: 文庫